第7回 ビバボイスについて
銀鈴会では、携帯用の拡声装置としてビバボイスの使用を勧めています。この装置は、1994年から5年間、通産省(当時)工業技術院が主導した医療福祉機器研究開発プロジェクトの一環として、アシダ音響、松下電器産業、ティアックの3社が共同開発したもので、開発にあたっては、これら3社の担当技術者に複数の工学者、医師、言語聴覚士および当時銀鈴会会長であった中村正司氏などが加わって構成された研究委員会が頻回に開催されて検討が続けられました。当初は食道発声で出された声にデジタル信号処理を施すことによって一種の人工合成音声を作り、声の音質を向上させることを目的としたのですが、検討を進めるうちに、食道発声そのものが音としてかなり不安定な性質を持っているために、リアルタイムに近い速さで音質向上を実現すること(つまり器械に取り入れた声を、間髪を入れずに良い声にすること)は非常に難しいと考えられました。1999年には試作機が作られたのですが、その時点で、必ずしも音質を変化させなくても食道発声の音量を上げるだけで明瞭度を高めることが可能であると判断され、実用化にあたっては、まず携帯できる程度の手頃な大きさと価格の範囲で、音量を大きくすることを第一条件とする方針となりました。その結果、プロジェクトの終了時には、男性の胸ポケットに入る程度で、特別に設計された増幅器とスピーカ(2個)を備え、万年筆くらいの手持ちマイクロホンのついた拡声装置が完成されました。一般に小型の拡声装置では、マイクロホンと器械本体が近いために、いわゆるハウリング(音の唸り)が起こりがちですが、この器械ではそうした欠点を極力排除するような工夫がされました。
銀鈴会では、この器械を普及させるように会として頒布を引き受けています。この器械の使用に当たっては、マイクロホンを口元に近づけて話すことが大切で、また上述のハウリングを避けるために、マイクロホンを器械本体から少し離してからスイッチを入れ、その後も余り本体にマイクロホンを近づけないように注意すべきです。
現段階では、この器械はあくまで拡声装置であり声の質を変えるものではありません。従って食道発声を上手にさせるものではなく、声を大きくする道具と理解する必要があります。別の言い方をすれば、この器械の最大の特徴は、小声で話してもかなりの音量が得られる点にあり、一般に無理に大きな声を出すと食道発声の明瞭性が損なわれる場合が多いことから、小さい声で、はっきり話すという習慣を身につけるために極めて有効な器械として活用するべきでしょう。本来、食道発声の練習にあたって最も重要なことは話の明瞭性を高めることにあるのです。そういう原点に戻って練習するためにこの器械を利用していきたいものです。
とにかく、ビバボイスは食道発声の獲得を早める器械ではありません。まず食道発声が出せるようになって、初めてこの器械を使う意味が出てくるのです。この点を十分に認識して、マイクロホンをしっかり口の前にかまえ、小声でよいから、ゆっくり、はっきり話す練習に使っていただきたいと考えています。近い将来、この器械のマイクロホンの改良や、さらには電話器との接続、あるいは女性の場合に少しでも声の高さを高めるシステムの開発などへ進んで行くことが期待されています。
Last Update : 2006/6/14
特別寄稿
医学の目
第1シリーズ
- 第1回 喉頭がんについて
- 第2回 手術後の心構え総論
- 第3回 喉頭の構造と機能
- 第4回 喉頭摘出後の問題点
- 第5回 喉頭癌術後のQOLと声のリハビリテーション
- 第6回 食道と食道発声
- 第7回 食道発声における空気の取り込み
- 第8回 食道発声の習得状況について-その1
- 第9回 食道形成手術について
- 第10回 食道再建・形成手術後の食道発声習得の実情
- 第11回 声の出る仕組みについて
- 第12回 食道発声で声が出る仕組み
- 第13回 呼吸と過呼吸(過換気)症候群
- 第14回 食道発声がうまくいかない場合-なぜ声が出ないのか
- 第15回 食道発声における好ましくない習慣
第2シリーズ
- 第1回 声の高さについて
- 第2回 声の高さと強さ
- 第3回 「話す速度について」
- 第4回 ことばの音の種類と明瞭度
- 第5回 ことばの明瞭度・・・続き
- 第6回 歌と食道発声
- 第7回 ビバボイスについて
- 第8回 身体障害者の現状と老人保健について
- 第9回 喉摘者に対する国民年金・厚生年金保険障害認定について
