第2回 声の高さと強さ
前回に述べた声の高さのことについて少し補足したいと思います。声の高さに男女差があることを説明しましたが、男でも女でも一人ひとりについてみると、それぞれ声の高さを変えて高い声、低い声を出し分ける調節を行っているわけです。たとえば歌を歌う時には、高さつまりメロディの調節が不可欠です。また、文章に抑揚をつけることや、単語にアクセントをつけることも声の高さの調節の重要な側面です。抑揚やアクセントには方言の差があり、標準語では疑問文、とくにyes-noで答えられるような疑問文では語尾が上がりますが、北関東から福島の付近の方言では平叙文で語尾が上がることがあります。アクセントについては東京方言と関西方言では、アクセントと位置が逆になることが多く、「垢」と「赤」などはその例の一つで、アカの最初のアの音を高くすると東京では「赤」になり、関西では「垢」になってしまいます。中国語やタイ語では、単語内の高さの変化で単語の意味が変わるという特徴を持っており、音調言語などと呼ばれています。中国語では4種類に変化があるので四声といわれており、たとえば“ma”という単語では高さの変化パターンによって、「母親」、「麻」、「馬」、「駕籠」と、4種類の違った意味を持ってきます。タイ語はもっと複雑で5種類の変化パターンがあります。
喉摘者では、歌のメロディが歌いにくいほか、こういうアクセントの調節が難しく、さらに中国語やタイ語のような言語では意味の出し分けがもっと難しくなるのです。それでも以前中国から来た紀燕さんのように、上手な人では出しわけが的確に行われていました。そのメカニズムは実はまだよく判っていないのですが、新声門部の緊張を高めるような調節によって声をある程度高くできるようです。日本語はこれより単純ですので、練習効果が期待できます。
高さとは別に声には強さという要素があります。強さというのは音の物理的なエネルギーに対応しており、「強い声」を出した場合、音を聞く側の感覚としては「大きい声」として受け取られます。従って一般的な表現としては、大きい声を出す、という意識で出すと結果的に強い声が得られるといえるでしょう。なお、高い声と強い声(あるいは大きい声)というものとが混同されることがありますが、高さと強さ(感覚的には「大きさ」)とは、はっきり区別して考える必要があります。ただ、歌手などを別とすれば、普通は大きい声を出そうとすると同時に声の高さも上昇することが多く、この両者を区別して出し分けるのは必ずしも容易ではありません。声の強さは、主として吐く息の圧力(呼気圧)と音源(健常者では声帯部)の閉鎖の力によって決まるもので、強い(大きな)声を出す場合の意識としては、のどに力を入れ、吐く息にも力を入れるようにします。これは食道発声の場合も同様で、新声門部に力を入れ、吐く息にも力をこめるようにすると強い(大きな)声となります。
特別寄稿
医学の目
第1シリーズ
- 第1回 喉頭がんについて
- 第2回 手術後の心構え総論
- 第3回 喉頭の構造と機能
- 第4回 喉頭摘出後の問題点
- 第5回 喉頭癌術後のQOLと声のリハビリテーション
- 第6回 食道と食道発声
- 第7回 食道発声における空気の取り込み
- 第8回 食道発声の習得状況について-その1
- 第9回 食道形成手術について
- 第10回 食道再建・形成手術後の食道発声習得の実情
- 第11回 声の出る仕組みについて
- 第12回 食道発声で声が出る仕組み
- 第13回 呼吸と過呼吸(過換気)症候群
- 第14回 食道発声がうまくいかない場合-なぜ声が出ないのか
- 第15回 食道発声における好ましくない習慣
第2シリーズ
- 第1回 声の高さについて
- 第2回 声の高さと強さ
- 第3回 「話す速度について」
- 第4回 ことばの音の種類と明瞭度
- 第5回 ことばの明瞭度・・・続き
- 第6回 歌と食道発声
- 第7回 ビバボイスについて
- 第8回 身体障害者の現状と老人保健について
- 第9回 喉摘者に対する国民年金・厚生年金保険障害認定について
