第14回 食道発声がうまく行かない場合
― なぜ声がでないのか
(1)食道に空気が入らない
すでにお話しましたように、食道発声も普通の発声と同じように空気の流れを音源の部分で断続して、丁度、管楽器のような理屈で音を作っています。つまり、音源となる食道の入り口付近の粘膜が空気の流れで振動して、結果的に気流を断続していることになります。
従って食道発声が成立するためには、とにかく下方すなわち食道から空気が送り出される必要があり、さらにその前提条件としては、一旦食道内に空気を取り込まなければ話になりません。食道発声がうまく行かない最大の原因は、空気がうまく食道に入らない、ということにつきるでしょう。よく例え話として、弾丸をこめなくては鉄砲が撃てないといいますが、まず食道に空気を入れなければ、次の段階が成り立たないわけです。
多くの場合、食道に空気が入らないのは、空気を吸い込む瞬間に食道の入り口が十分に弛まないためと考えられます。
空気の取り入れ方としては吸引法と注入法が代表的なものであると前にも述べましたが、いずれの場合も気管孔からの吸気、つまり肺に息を吸い込むのと同時に食道への取り込みを行うのが鉄則です。
吸気の瞬間、肩や頸の力を抜いて食道の入り口をリラックスさせると、吸気に伴って胸郭内が陰圧になるため空気は食道へ入っていきます。この時、口の中で舌をあおるような動きがみられることもあり、また自覚的には鼻から息を啜りこむような感じで口の中や咽頭内の空気を食道に吸い込むようにします。口腔内の空気に圧力をかけて食道内へ押し込もうとうする注入法の場合でも、食道の入り口が十分に弛むことが必要で、弛みが不十分であると注入の際、グウーッという“押し込みノイズ”が聞こえてしまします。
とにかく、喉頭がある場合と違って、口や咽頭にあるものはすべて安全に(つまり息をする方に入って窒息してしまう心配なしに)食道に入って行くのですから、手術前とは発想を転換して、口から食道への取り込みを行うようにすべきです。
初心者に勧められる「お茶のみ法」は、飲み込む瞬間に食道入口部が弛むことを利用して、その部分をお茶が通過する感じをつかみ、さらに空気が流れ込んでいく感じを覚えてもらう狙いがあります。但し、飲み込み時には息が一旦止まるので、吸引との併用は無理となります。ですから、「お茶のみ法」は、あくまでごく初期の段階で使うもので、早くそこから卒業する必要があります。
(2)空気を出そうとしても声にならない
食道からの空気を、今度は腹圧をかけて出そうとすると声になるはずですが、その瞬間には食道入口部がある程度狭くなっている必要があり、また粘膜が振動できるほど柔らかくないと音がでません。この時少し「のど」の部分に力を入れますが、あまり頸部に力が入り過ぎると、却って振動は起こり難くなります。
食道再建手術後には入口部が開き放しのこともあるので、指で前頸部を軽く押さえる必要があるのが通例です。また、余り大きい声を出そうとすると余計な力が入って音が汚くなるので、軽く発声しビバボイスなどを活用して音量を増すのが効率的です。
以上のことは理屈だけでは身につかず、やはり自分で体得すべきものでしょう。
Last Update :
2004/05/01
特別寄稿
医学の目
第1シリーズ
- 第1回 喉頭がんについて
- 第2回 手術後の心構え総論
- 第3回 喉頭の構造と機能
- 第4回 喉頭摘出後の問題点
- 第5回 喉頭癌術後のQOLと声のリハビリテーション
- 第6回 食道と食道発声
- 第7回 食道発声における空気の取り込み
- 第8回 食道発声の習得状況について-その1
- 第9回 食道形成手術について
- 第10回 食道再建・形成手術後の食道発声習得の実情
- 第11回 声の出る仕組みについて
- 第12回 食道発声で声が出る仕組み
- 第13回 呼吸と過呼吸(過換気)症候群
- 第14回 食道発声がうまくいかない場合-なぜ声が出ないのか
- 第15回 食道発声における好ましくない習慣
第2シリーズ
- 第1回 声の高さについて
- 第2回 声の高さと強さ
- 第3回 「話す速度について」
- 第4回 ことばの音の種類と明瞭度
- 第5回 ことばの明瞭度・・・続き
- 第6回 歌と食道発声
- 第7回 ビバボイスについて
- 第8回 身体障害者の現状と老人保健について
- 第9回 喉摘者に対する国民年金・厚生年金保険障害認定について
